恋愛を記録する彼女。

アンドロイドのお姉さん

この記事を書いているのはバレンタインデーが迫った平日で、Yahoo!のトップページには「バレンタイン気分を高めてくれるデート服」という記事がサジェストされている。

人混みが怖くて百貨店のチョコレート売り場には行かないけれど、今年はそれでバレンタインデーの到来を感じている。

14日の日曜日もきっと何もなく家で過ごすのだと思う。

「恋愛」について書いて欲しいといわれて「かしこまりました」とメールを返した。そんなやり取りは丁度恋愛映画を見た直後にあって「愛」とは?「恋」とは?なんて哲学のような答えのない話を人に聞いてもらいたかったのかもしれない。

アンドロイドのお姉さんSAORIさん

SAORI
「アンドロイドのお姉さん」として活動中のフリーランス。プロモーション動画やイベントなどでアンドロイド役を演じ、話題を集めている。大阪府出身。
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自分の知らない世界を教えてくれる彼女

好きだったあの人の話を書こうか、最近の恋愛事情について書いてみようか、タブーな話も書きたくなるかもしれないな、などと机の前で思考を巡らせてみたけれど恋愛について考えるとき、私の脳裏には必ず一人の女性が浮かんでくる。

彼女は高校時代からの友人で、出会った時から今までの私の恋愛遍歴をすべて記憶している。

大袈裟に聞こえるかもしれないが嘘ではない。彼女は私の歴代の彼氏、私の好きだった人の名前を正確に憶えていて、出会いのシチュエーションや相手の職業もスラスラ答えられる。何人かは直接合わせた事もあるし、そうでない場合でも写真を見せているので、見た目の特徴もかなり的確に覚えている。

私がすっかり忘れていた男のしょうもない話まで覚えていて、彼女の記憶力にはいつも驚かされる。

まだ制服を着ていた頃のメールを一通送るのにも躊躇していた純粋な恋も、彼しかいないと自分を見失うくらい夢中になった恋も当時はすごく重大で、喜びや不安、嫉妬、衝動、恋愛におこりうる感情のすべてを彼女に話していた。

彼女は「うん、うん」と頷きながら聞いてくれて、時には一緒に喜んで、怒って、涙してくれた。

私は彼女に憧れていたんだと思う。

彼女は可愛かった。喜怒哀楽によって表情がころころ変わって見ているだけで楽しい人だった。同じ年にしてはませていて出会った時から4つ年上の大人な彼氏がいた。

「車デート」「イタリアン」「プレゼント」

そんな単語がよく出てくる彼女の恋バナが、自分の知らない世界を教えてくれているような気がして本当に好きだった。まわりのみんなより大人に思えて、私もそうなりたかった。

でも彼女ほど器用ではなく自分に自信がなかった私は、「恋」や「愛」について彼女に逐一教えてもらうことにした。

「ちょっといいな」から「好き」に変わる瞬間の心の変化。自然なメールアドレスの聞き出し方。デートの誘い方など、彼女は持っていた恋愛の知識を余すところなく教えてくれて、私もそれに応えるべく実践し、成果報告をした。学校の近くのロッテリアやスーパーのフードコートで放課後から閉店のメロディーが鳴るまで2人だけの長い報告会をしていた。

学校を卒業しても大人になっても恋の始まりと終わりには必ず彼女がいて、彼女に聞いてもらう事は私の恋愛における欠かせない手順の一つになっていた。

好きな人が出来たら彼女に認めて欲しいからと少し見栄をはって、「好きなところ」を1.5倍大袈裟に伝えた。別れることになったら彼女に慰めてもらおうと「最初からこういうところが嫌いだった」と好きだった人の事を1.5倍悪く言った。

惚気と愚痴の丁度いいバランスで構成されている彼女の、[私の恋愛に関する]記憶はかなり信憑性の高いものになっているのかもしれない。

結婚する彼女

そんな彼女はもうすぐ結婚するらしい。出会った時から10年以上経っていてお互いにいい年になったので当然の流れなのかもしれない。

「結婚」「安定」「子供」

数年前から彼女の恋バナもいつしか年相応のものに変わって、現実的な単語が増えた。

私もそれなりに出会いと別れを経験して、もう彼女に教えを乞う必要もないように思える。でも、いまだに彼女に全てを話してしまう。好きな人とずっと一緒にいられますようにと祈りに近い願望を話し、失敗したら懺悔のような気持ちで話す。私の恋愛の仕組みを構築してくれた彼女に、すべての過去の恋愛を知る彼女に、複雑で難解な恋愛の正解を出してもらえることをいまだに期待しているのかもしれない。

コロナでなかなか会えていないけれど、彼女は元気なのだろうか。
久しぶりに連絡をしてみると「お、新しい恋の予感ですか?」などとからかい半分な返事がきた。
そう、最近また話したい事があるのだ。

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