「遺影を撮るなら『今』がいい」 写真家が語る遺影の持つ意味とは?

遺影を撮るタイミング

「まだ若いし遺影なんて考えたこともない」という人は多いはず。

「でも今自分が死んだら、どの写真が遺影になるの?」

遺影写真家として活動して10年。

遺影専門の写真館「素顔館」の館長をつとめる能津喜代房さんに、遺影の“撮るべきタイミング”、“選び方のポイント”についてアドバイスをもらいました。

素顔館館長の能津喜代房(のづ・きよふさ)さん

(取材・文章・写真:勝田健太郎)

遺影を撮るなら“今”がいい

能津さんは、長きにわたり広告写真専門のカメラマンとして活躍。60歳をむかえた2008年、遺影写真のカメラスタジオ「素顔館」を開業。以来、多くの遺影写真を撮り続けています。

そんな能津さんに、「遺影写真っていつ撮ればいいの?」と疑問をぶつけてみました。

「人はいつ亡くなるかわからない」

「遺影写真は、いつ撮るべきでしょうか」との質問に、能津さんは「今」とすばやく切り返します。

人の命がどうなるかって分からないでしょ。若い人も毎日のように亡くなっている。

70、80になったからと準備するのではなく、年に関係なく「みなさんとりあえず一枚撮りましょうよ」と提案しているの。

いつ撮った写真を使うべきか

たとえば、20歳の人が今日遺影写真を撮ったとしましょう。でも、今日の写真が数十年後の遺影になったら変ですよね。

ただ、その方が1年後、2年後にもし事故とかで亡くなったとしたら、今日撮った写真が家族にとっては宝物になるんですよ。

だからみなさんとりあえず一枚撮りましょうよ。

10年たったらまた撮りましょうよと。10年に一度でいいからね。ちゃんとした自分らしい写真を残すことがいいことですよって。

僕だって自分の息子に先に逝かれちゃうと、こんなつらいことはない。

でも、現実に子どもが亡くされた人はいっぱいいるわけじゃない。

そのときに、イキイキとしている写真が手元に残っていたらどんなに救われるか……。

素顔館館長の能津喜代房(のづ・きよふさ)さん

写真:編集部撮影

良い遺影写真のポイント

いつも腕を組んでいるのが癖な人だったら、腕を組んで撮ってもいいわけですよ。

いつも帽子が好きなお父さんだったら、帽子をかぶって撮ってもいいの。

その写真を見ただけで、「お父さん、いつも帽子かぶってたね」と浮かんでくるのがいい写真。

残された家族が見続ける写真だから、ちょっと隙がある写真でいいの。

写真:編集部撮影

また、能津さんに遺影写真を撮るときのこだわりをうかがいました。

僕は写真を撮るとき緊張するけど、お客さんは僕以上に緊張しているわけ。

だから僕は20分くらいお茶を飲みながら話をして、気持ちが落ち着いてから撮り始めるの。

撮りながらも、趣味の話とかお孫さんの話をしながら、目がキラキラしたときの一瞬の表情を撮るの。

スマホの写真じゃだめなの?

一方で、スマホの普及により誰でも簡単に写真を撮れる時代になりました。スマホの写真をトリミングして、遺影にするのはだめなのでしょうか。

みなさん写真はいっぱい持っているでしょう。たとえば旅行先での写真とか。

でも、そういう写真は背景があったり、下半身も映ってるでしょ。それをトリミングして、拡大するとボケちゃってさみしい写真になるわけ。

だから、遺影写真として残してもいいなって思える写真が一枚あってもいいと思うの。

遺影写真は、「残された家族が見つづけるための写真」であって、「葬儀の祭壇のためのお飾りではない」と能津さんは言います。

義父の死をきっかけに遺影撮影家に

遺影を撮り始めたきっかけは、20年前に義父(ちち)を亡くしたときに、義父の写真を一枚も撮っていなかったことに気が付いたんですね。ずいぶんお世話になったんですけど、それをすごい悔やんで……。

じゃあせめて自分の親だけは元気なうちに撮っておこうと。実家山口に帰ったときに「親父、ちょっとそこ座って」と撮った写真がすばらしく良い写真だったの。

その写真を見ただけで、「おはよう」とか「おーい」という声が頭に響いてきて、嬉しかったの。

自分がこんなにも嬉しいと思うのなら、きっと皆さんにも喜んでもらえる。僕は広告の仕事をずっとしていたけど、広告の仕事を辞めて、「遺影写真を撮ろう」と心に決めたの。

「その人らしい写真があったら、これから家族が見続けて“何かあったら話かける一枚の写真”になるわけ」と能津さん。

だから僕は、「自分らしい写真をとりあえず一枚撮りましょうよ」って提案しています。

かつてはタブー視されていた遺影写真撮影

能津さんが素顔館での仕事を始めた当時は、遺影写真を撮ることは“よくないもの”とされていたこともあったそう。

七五三、結婚式、成人式など、おめでたい写真は撮るけども、死んだときの写真を撮ることは縁起が悪いとされていた。

でも、僕の考えとしては縁起が悪いものじゃない。「これは宝物になる写真になるんだ」ってこの仕事を始めたの。

写真:編集部撮影

この記事の取材協力

素顔館

遺影写真専門の写真館。館長を務める能津喜代房(のづ・きよふさ)さんは、東京工芸大学(旧東京写真大学短期大学部)卒業後、資生堂宣伝制作写真部入社。その後、フリーカメラマンに転身し、2008年に「素顔館」を開館。以降、”遺影専門の写真館”という目新しさから、テレビ、ラジオでの出演依頼が多数寄せられている。

 

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